客席を増やしたら防火管理者が必要と言われた ~客席数だけでは分からない「収容人員」の話~

「客席を少し増やしただけなのに、防火管理者を選任してくださいと言われました。」

飲食店を経営されている方にとっては、突然そのように言われても、

「なぜ客席を増やしただけで?」

「防火管理者とは何をする人?」

「これまで必要なかったのに、どうして?」

戸惑うのではないでしょうか。

今回ご紹介するのは、店舗のレイアウトを変更して客席を増やしたことをきっかけに、消防署から防火管理者の選任を求められた事例です。

問題となったのは、店舗の面積が増えたことでも、新しい消防設備を設置したことでもありません。

ポイントは、店舗を利用する人の数を表す**「収容人員」**でした。

※この記事について

この記事は、実際にあった現場事例をもとに構成しています。

個人や事業者が特定されないよう、店舗の規模、客席数、建物の状況などは一部変更しています。

また、防火管理者が必要となるかどうかは、建物全体の用途、収容人員、管理権原、規模などによって判断が異なります。

目次

現場であった事例

今回の店舗は、以前から営業していた飲食店でした。

当初は比較的小規模な店舗で、防火管理者を選任する必要はないものとして運営されていました。

その後、より多くのお客様を受け入れるため、店内のレイアウトを変更することになりました。

使っていなかったスペースを客席として利用し、テーブルと椅子を追加したのです。

店舗側としては、

「空いている場所に客席を増やしただけ」

という認識でした。

建物を増築したわけでもありません。

厨房設備を大きく変更したわけでもありません。

ところが、その後の消防署の確認で、

「収容人員が基準以上になるため、防火管理者の選任が必要です」

と説明を受けました。

飲食店では「30人」が一つの基準になる

飲食店は、不特定多数の人が利用する特定防火対象物に該当します。

飲食店などを含む建物では、原則として建物全体の収容人員が30人以上になると、防火管理者を選任して防火管理を行う必要があります。大阪市も、飲食店など不特定多数の人が出入りする建物について、建物全体の収容人員が30人以上のものを防火管理制度の対象として案内しています。

この「30人」という数字を聞くと、

「客席が30席未満なら大丈夫」

と思われるかもしれません。

しかし、ここが今回の重要なポイントです。

客席数と収容人員は、必ずしも同じではありません。

客席数だけで判断してはいけません

飲食店の収容人員は、一般的にはお客様だけでなく、店舗で働く従業員も含めて算定します。

例えば、客席が28席だったとしても、

  • 厨房で働く人
  • ホール担当者
  • 店長などの従業員

を加えることで、収容人員が30人以上になる可能性があります。

つまり、

「30席になったら必要」ではなく、「算定した収容人員が30人以上になったら必要になる可能性がある」

ということです。

また、同じ建物内に複数の店舗や用途が入っている場合は、建物全体の利用状況や管理権原を含めた確認が必要です。大阪市の資料でも、同じ管理権原に属する用途部分については収容人員を合算する例が示されています。

今回は「座席」ではなく「人」が増えたことがポイント

今回の事例では、店舗の床面積そのものは変わっていませんでした。

しかし、客席を増やしたことで、店内に収容できるお客様の数が増えました。

さらに、営業時に勤務する従業員を加えると、収容人員が防火管理者の選任基準に達することになったのです。

店舗側から見ると、

客席レイアウトを変更しただけ。

消防法の視点から見ると、

火災時に避難誘導しなければならない人が増えた。

ここに、認識の違いがありました。

防火管理者制度は、書類を提出することだけを目的としたものではありません。

利用者が増えた建物で、

  • 誰が119番通報するのか
  • 誰が初期消火を行うのか
  • 誰がお客様を避難誘導するのか
  • 日頃の消防訓練をどう実施するのか

といった防火管理の体制を整えるための制度です。

なぜ客席を増やす前に分からなかったのか

店舗のレイアウトを変更する際、多くの方が確認するのは、

  • 内装工事の費用
  • テーブルや椅子の配置
  • 厨房から客席までの動線
  • 売上や回転率

といった営業上のポイントです。

一方で、

客席を増やすことで収容人員が変わり、防火管理者が必要になる可能性がある

という点まで意識されることは多くありません。

また、客席を増やしても、外から見た建物の形は変わりません。

消防設備を新しく設置したわけでもないため、事業者自身が消防法上の変更に気付きにくいのです。

しかし、火災時の安全という視点では、建物の中にいる人が増えることは大きな変化です。

防火管理者を選ぶだけでは終わりません

防火管理者が必要になった場合、単に有資格者の名前を届け出れば終了するわけではありません。

選任後は、建物や店舗の実情に応じた消防計画を作成し、消防署へ届け出ることになります。

さらに、日常の火気管理、避難経路の維持、消防訓練の実施など、継続的な防火管理が求められます。

つまり、今回の事例は、

「客席を増やしたら届出が一枚増えた」

という話ではありません。

店舗を利用する人が増えたため、それに見合った安全管理体制が必要になった

という事例なのです。

防火管理者には誰を選任できるのか

防火管理者は、資格を持っている人であれば、誰でもよいというわけではありません。

店舗の防火管理について、実際に必要な業務を行える立場の人を選ぶ必要があります。

飲食店の場合には、例えば、

  • 店主
  • 店長
  • 現場責任者
  • 営業時間中に店舗を管理できる人

などが候補になります。

一方で、資格を持っていても、ほとんど店舗に来ない人や、従業員へ指示できない人を名義だけで選任するのは適切ではありません。

防火管理者は、消防計画を作成するだけでなく、日常の火気管理や避難経路の確認、消防訓練などを中心となって進める役割を担うからです。

甲種と乙種のどちらが必要になるのか

防火管理講習には、主に甲種防火管理新規講習乙種防火管理講習があります。

甲種防火管理新規講習の修了者は、用途・規模・収容人員にかかわらず防火管理者になることができます。

一方、乙種防火管理講習の修了者が防火管理者になれるのは、小規模な建物や大規模な建物内の一定の小規模テナントなどに限られます。

そのため、

「小さな飲食店だから乙種でよいだろう」

と、店舗の見た目だけで判断することはできません。

確認が必要なのは、

  • 建物全体の用途
  • 延べ面積
  • 店舗部分の面積
  • 収容人員
  • 単独店舗か複合用途の建物か
  • 管理権原がどのように分かれているか

といった条件です。

今回のように客席を増やした場合も、収容人員だけでなく、建物全体の状況を確認したうえで必要な資格区分を判断します。

資格を持つ人がいない場合はどうするのか

店舗内に防火管理者の資格を持つ人がいない場合は、対象となる人が防火管理講習を受講する方法が一般的です。

ただし、講習を修了すれば、その時点ですべての手続きが完了するわけではありません。

講習修了後に、管理権原者が防火管理者を選任し、管轄消防署へ届け出る必要があります。

大阪市では、防火管理者を選任または解任したときに、防火・防災管理者選任(解任)届出書を提出し、資格を証明する修了証などの写しを添付する手続きが案内されています。

防火管理者を選任した後に必要なこと

防火管理者を選任した後は、主に次の対応が必要になります。

① 選任届を提出する

管理権原者が防火管理者を選任し、その旨を管轄消防署へ届け出ます。

届出には、防火管理講習の修了証など、資格を証明する書類が必要です。

② 消防計画を作成する

防火管理者は、管理権原者の指示を受け、建物の構造や設備、使用状況に応じた消防計画を作成します。

消防計画には、例えば、

  • 火気の管理
  • 消防設備の維持管理
  • 避難経路の確保
  • 火災発生時の通報
  • 初期消火
  • お客様の避難誘導
  • 消防訓練の実施

など、店舗の防火管理に必要な事項を定めます。

作成または変更した消防計画は、管轄消防署へ届け出ます。

③ 消防訓練を実施する

飲食店には、不特定多数のお客様が訪れます。

火災時には、従業員自身が避難するだけでなく、お客様を安全な場所へ誘導しなければなりません。

そのため、

  • 火災を発見した人が何をするのか
  • 誰が119番通報するのか
  • 誰が初期消火を行うのか
  • 誰が客席を確認するのか
  • どの出口から避難誘導するのか

あらかじめ決めて訓練しておくことが重要です。

大阪市では、特定用途防火対象物の防火管理者が消防計画に基づく消火・避難訓練を行う場合、事前に消防機関へ通報するための手続きも案内されています。

客席を増やす前に確認しておきたいこと

客席を増やす計画がある場合は、テーブルや椅子を追加する前に、次の点を確認しておくことが大切です。

現在の収容人員

客席数だけでなく、従業員を含めて確認します。

変更後の収容人員

客席の追加によって、防火管理者の選任基準を超えないか確認します。

避難経路への影響

新しいテーブルや椅子が、通路や出口を狭くしないか確認します。

建物全体の状況

複数の店舗が入る建物では、自店舗だけで判断できない場合があります。

必要となる届出

防火管理者の選任だけでなく、消防計画や使用開始に関する届出の変更が必要になることもあります。

管轄消防署によって確認すべき内容が異なることもあるため、具体的な計画が決まった段階で、所轄消防署の予防担当へ相談することが確実です。大阪市も、防火・防災管理関係の申請や届出について、対象物を管轄する消防署への相談を案内しています。

元消防士としてお伝えしたいこと

今回の店舗では、事業者様に法令違反をしようという意図があったわけではありません。

より多くのお客様に利用してもらうため、店内の空いている場所に客席を追加しただけでした。

しかし、消防の立場から見ると、客席が増えるということは、

火災時に避難しなければならない人が増える

ということです。

人が増えれば、通報、初期消火、避難誘導などを、誰がどのように行うのかをあらかじめ決めておく必要があります。

防火管理者の選任は、事業者に新しい肩書や書類を増やすための制度ではありません。

お客様と従業員の安全を守るために、店舗内の防火管理を担う人を明確にする制度です。

だからこそ、客席の増設やレイアウト変更を考えたときには、売上や動線だけでなく、防火管理の面からも確認していただきたいと思います。

まとめ

飲食店で客席を増やすと、店舗内の収容人員も増える可能性があります。

その結果、それまで必要ではなかった防火管理者の選任が必要になることがあります。

注意したいのは、

客席数と収容人員は同じではない

ということです。

客席が30席未満でも、従業員などを加えることで基準に達する場合があります。

また、防火管理者が必要になった場合は、

  • 適切な資格を持つ人を選任する
  • 選任届を提出する
  • 消防計画を作成する
  • 日常の防火管理を行う
  • 消防訓練を実施する

といった継続的な対応が必要です。

客席を増やしてから指摘を受けるのではなく、レイアウト変更の前に確認することが、余計な手戻りを防ぐことにつながります。

このようなお悩みはご相談ください

  • 客席を増やす予定がある
  • 防火管理者が必要と言われた
  • 収容人員の計算方法が分からない
  • 甲種と乙種のどちらが必要か分からない
  • 防火管理者の選任届を作成したい
  • 消防計画を店舗の実情に合わせて見直したい

Safety Design防災行政書士事務所では、元消防士・消防設備士・行政書士としての経験を生かし、建物の状況確認から届出、消防計画まで一貫してサポートします。

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この記事を書いた人

元消防職員、消防設備士、行政書士としての経験を生かし、「安全を設計する」を理念に消防申請、防火管理、設備相談、福祉施設の安全支援まで一貫してサポートしています。

Safety Design 防災行政書士事務所 代表

青木防災株式会社 顧問

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