「人生には3つの坂がある。上り坂、下り坂、そして『まさか』。」
これは元内閣総理大臣である小泉純一郎氏の有名な言葉です。
この言葉を聞くたびに、私は消防・防災の仕事を通じて数多くの火災現場や防火指導に携わってきた経験を思い出します。
なぜなら、火災に遭われた方の多くが口にする言葉がまさに「まさか」だからです。
「まさか自分の店で火災が起きるとは思わなかった。」
「まさか自分の会社で火事になるとは。」
「まさか避難できなくなるとは。」
「まさか消防設備が作動しないとは。」
火災は決して特別な場所だけで起こるものではありません。
ニュースで報道される大規模火災を見ると、どこか他人事のように感じてしまうことがあります。しかし、火災は住宅、店舗、事務所、工場、倉庫など、あらゆる場所で発生しています。
そして火災が発生する前、多くの人はこう考えています。
「うちは大丈夫だろう。」
ところが、実際に火災が発生した後には、
「まさか自分が。」
という言葉に変わるのです。

火災は突然やってくる。
火災の原因はさまざまです。
コンセントや延長コードから発生する電気火災。
厨房設備からの出火。
たばこの不始末。
放火。
機械設備の異常。
近年ではモバイルバッテリーやリチウムイオン電池による火災も増加しています。
どれも決して珍しいものではありません。
むしろ、日常生活や業務の中に潜んでいる身近な危険です。
だからこそ、「火災は起こるかもしれない」という前提で対策を講じることが重要になります。
消防用設備は消防署のためではない。
消防設備点検をお願いすると、
「法律だから仕方なく。」
「消防署に言われるから。」
という声を耳にすることがあります。
しかし、消防設備は消防署のために設置するものではありません。
火災が発生した際に、建物を利用する人の命を守るために設置されているものです。
自動火災報知設備は火災を早期に知らせるため。
消火器は初期消火を行うため。
誘導灯は安全な避難を支援するため。
スプリンクラー設備は火災の拡大を防ぐため。
それぞれが重要な役割を担っています。
そして、いざという時に確実に作動させるためには、日頃の点検と維持管理が欠かせません。
消防訓練が命を守る。
火災時に最も危険なのは、炎だけではありません。
煙による被害です。
避難が遅れれば命に関わる危険があります。
そのため、防火管理者を中心とした消防訓練は非常に重要です。
訓練を実施していない建物では、火災発生時に誰が通報するのか、誰が初期消火を行うのか、誰が避難誘導を行うのかが曖昧なままになっていることも少なくありません。
しかし、訓練を重ねている建物では、火災発生時にも落ち着いて行動できる可能性が高まります。
訓練とは、まさに「まさか」に備えるための準備なのです。
防災とは「まさか」を減らす活動です。
防災とは、火災を完全になくすことではありません。
火災が発生した時の被害を最小限に抑えることです。
消防設備の点検。
防火管理体制の整備。
消防訓練の実施。
避難経路の確保。
これらはすべて、「まさか」が起きた時に人命と財産を守るための取り組みです。
人生には上り坂もあれば下り坂もあります。
そして誰にでも「まさか」は訪れる可能性があります。
だからこそ、防災の本質は「まさか」への備えにあります。
今日、皆さまの職場やご家庭に「まさか」の種はないでしょうか。
火災が起きてから後悔するのではなく、火災が起きる前に備える。
それこそが防災の第一歩なのです。
